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岡山地方裁判所 平成2年(行ク)1号 決定 1990年2月19日

主文

一  被申立人が平成二年一月八日付で申立人に対してなした岡山武道館の利用等許可の取消処分は、本案判決が確定するまで、その効力を停止する。

二  申立費用は被申立人の負担とする。

理由

一  本件申立の趣旨及び理由は別紙執行停止申立書(以下「申立書」という。)記載のとおりであり、被申立人の意見は別紙意見書記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

1  疎明資料及び当事者間に争いのない事実によれば、申立書に引用する別紙訴状請求の原因二及び申立書の申立の理由二1に各記載の事実並びに申立人は、全国教育研究集会(以下「本件集会」という。)の分科会会場及び参加者のための宿泊施設の相当数をすでに確保したこと、集会の全体会場として、岡山武道館(以下「本件会場」という。)もようやく確保できたものであり、本件会場の使用がもし許されなければ、本件集会の予定どおりの開催が事実上不可能になり、回復困難な損害を被ることが認められる。

2  被申立人は、本件会場の使用許可取消処分(以下「本件処分」)の通知が申立人に到達した平成二年一月九日から、集会の開催予定日である三月二八日までには七七日間もの期間があり、分科会会場や宿泊施設の確保も完了していなかったのだから、他の代替会場を確保することは可能であり、本件は、「回復困難な損害を避けるための緊急の必要があるとき」(行政事件訴訟法二五条二項)に該当しないと主張する。

しかしながら、申立人が予定する本件集会の規模や、予想される妨害行為の程度、それによる影響、本件会場での開催を申立人が計画するに至るまでの経緯、本件処分通告後の申立人による代替会場検討の結果等に鑑みると、開催予定日までの期間や開催準備の進捗の程度を考慮しても、本件会場の使用を拒否された場合に改めて代替会場を探すことは極めて困難というべきであり、申立人の緊急の必要性を否定することはできない。

3  被申立人は、本件集会に対する妨害や抗議行為により、本件会場が所在する岡山県総合グラウンドの他の施設の利用が困難になったり、近隣の交通渋滞など、市民生活に重大な影響が発生するから、「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある」(同条三項)場合に該当する旨主張する。そして、疎明資料によれば、過去の全国教育研究集会においては、実際に相当大規模な妨害行為が行われ、その結果、開催会場周辺の市民生活が相当程度の影響を被ったことが認められ、被申立人の危惧にもやむをえない面があると認められる。

しかしながら、被申立人が主張する混乱や影響は、申立人自体が発生させるものではなく、これを妨害しようとする第三者の主として違法な行為によるものである。それにもかかわらず、混乱等を根拠に一旦なされた使用許可等を取り消して申立人の本件会場使用を認めないことは、時には、右違法な妨害行為を助長する結果にもつながるものであって、集会の自由の重要性に鑑みると、相当とはいえず、右混乱や影響は、基本的には、適切な警察力の行使等によって防ぐべきものである。また、本件においては、使用許可を取り消して対処しない限り、市民生活に許容できないほどの重大な影響が発生するとの事実は疎明されているとはいえない。したがって、本件執行停止が公共の福祉に重大な影響を及ぼすとする被申立人の主張を認めることはできない。

4  被申立人は、申立人に対する使用許可は、岡山武道館条例(以下「条例」という。)三条二項一号及び三号によると本来許可してはならない場合に許可したものであったのであるから、いわゆる「職権取消」として、明文の規定を待たずに適法に取り消すことができるのであり、したがって本件申立は、「本案について理由がないとみえるとき」(同法二五条三項)に該当する旨主張する。

ところで、右条例を詳細にみると、その第三条(利用等の許可)は第一項において武道館利用者は被申立人の許可を受けなければならないこと、第二項において右許可申請の不許可事由を定め、その第六条(利用許可の取消等)は、被申立人がした右利用許可の取消等の事由を定めており、第六条一項一号では、取消等の事由として、右条例に違反したときが挙示されているから、利用許可がなされた後、前記不許可事由のあることが判明したような場合には、右六条一項一号によりこれを取消すことができるのであって、明文の規定なくこれを取消しうるものではない。

しかも、本件の場合、被申立人が本件利用許可の申請につき、これの許否を決するに当っては、慎重な審査がされたはずであり、仮に、申立人が本件会場を利用することにより起ると予想される混乱等が前記不許可事由に該当するとしても、右事由が本件許可後に被申立人に判明したと認めうる証拠はない。

さらには、本件許可後に前記不許可事由のあることを知りえたとしても前述の、集会の自由の重要性、予想される混乱が妨害行為によるものであること等に鑑みると、本件使用許可申請が条例三条二項一号及び三号に該当するか否かは厳格に判断すべきであると解せられることからすると、本件許可申請が当然に右各号に該当するとはいえない。

なお付言すれば、一旦使用を許可した後にこれを取り消す場合には、使用できることを前提に行動した許可申請者の利益を無視することはできないのであるから、その取消処分の適法性の判断も、単なる使用不許可処分の適法性が問題になる場合以上に厳格でなくてはならない。

以上のとおりであれば、本件申立が、「本案について理由がないとみえるとき」に当たるとは、到底認めることができない。

三  よって、本件申立は理由があるからこれを認容し、申立費用について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 梶本俊明 裁判官 岩谷憲一 裁判官 登石郁朗)

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